ゲーム回想記5 ~とある友人の回想録(ドラゴンクエスト編)~
ドラクエを貸しただけで終わるはずが……
これはファミコン版ドラゴンクエストを、当時の私の友人Nに貸しただけの話である。だが彼は、私のゲーム史において、数々の強烈なエピソードを残してくれた存在である。
Nとは幼稚園からの幼馴染みであったが、小学生では同じクラスになったことはなかった。ただ、5-6年生の時、体育の授業は隣のクラスの男子と合同で行うことになっていたので、隣のクラスだったNと話す機会が増えた。
Nは、いわゆるファミコンを買ってもらえない家庭であった。当時はファミコンを持っている、持っていないで友人のグループが分かれるような状況ではあった。
そんなNがついにファミコンを手に入れ、私に初代ドラクエを貸して欲しいと頼んできたのである。
すでにドラクエⅡが冬に発売されており、季節も夏に差し掛かっていたので、ドラクエⅡですら話題に上らない状態だった。私も、ドラクエをプレイすること自体がなく、ソフトケースに入れたまま放置していた。
ファミコンを手に入れたNを歓迎すると同時に、ドラクエのソフトを貸したのである。
給食中に流れてきたドラクエの音楽……
しばらく経ってから、友人Nが「ドラクエの音楽を学校の放送で流すわ」という話をしてきた。
Nは放送部に所属しており、給食の時間などに流す音楽は生徒の裁量に任されていた。アニメの曲やドラマの曲などが、給食時間に流れてくることは、日常の光景であった。
Nの言う通り、給食の時間に初代ドラクエの音楽が流れてきた。
そして、クラスがざわついた。
流れてきた音楽は、竜王と戦う時に流れる音楽(竜王のテーマ)だったのである。
しかも戦っている「ピー!」「ドンっ!」などSE音が入っている。当時はまだCDすらない時代なので、ラジカセなどでカセットテープに録音するのが一般的であった。
Nはドラクエをプレイして竜王まで辿り着き、録音したのである。
そして、死んだのである。
やらかし系のタイプ
音楽は途中で途切れたが、クラスで笑いの渦が巻き起こったのはいうまでもない。
友人Nは今でいう、やらかし系のタイプではあった。
Nは忍者好きなのだが、給食時間に流して欲しい音楽のアンケートを取り、なぜかベスト10以内に「忍者ハットリくん」のオープニング曲が入っていて、曲が流すなど、絶対にあり得ないことをやってしまうタイプである。
給食時間に、テレビ版『北斗の拳』のオープニング曲を流して、その時に牛乳を飲んでいた人たちが大惨事に見舞われるというような事件もあった。
そんな笑い渦巻く教室のなかで、ドラクエを貸した私が、ふと気づいたことがあった。
その日の放課後、私はNにその疑問をぶつけてみた。
「竜王と戦って時、呪文は使って回復しなかったのか?」
呪文を唱える音、ほとんどまったくといってよいほどしなかったのである。
悪いのは私だった……
「呪文てなに? ふっかつの呪文のこと?」
友人Nの返事に、私は唖然とした。
そう、私は初代ドラクエのソフトだけを貸して、説明書や攻略本などは貸していなかった。そもそもソフトだけ保管して、ケースや説明書は捨てるか行方不明になっている状態ではあった。
王様に復活の呪文を聞いて、それをメモしておけばつづきができる、という私の何気ないアドバイスぐらいしか、情報がなかったのである。
今ならインターネットなどで調べれば良いが、当時はそんな便利なものはない。ゲームに詳しい友人に聞けば答えてくれるだろうが、Nは今までファミコンを持っていなかったので、ゲームに詳しい友人を、クラスで作っていなかった可能性がある。
私が知っている限りでも、よく一緒につるんでいたのは、運動系の友人であり、よく運動場で野球やサッカーなどをしていた。
つまり、Nはクラスの友人とゲームの話題すらしない状況だったと考えられ、情報がほぼ皆無という状態で、ドラクエを進めていたのである。
小学生ぐらいならありがちな『わからないことは調べずに、そのまま進めてしまう』ということをしてしまったともいえる。
「ギラ」や「ホイミ」といわれても、なにがなんだかわからなくても不思議ではない。そこへ私が『ふっかつの呪文』のことを教えていたので、呪文というワードが別のことを示しているとは思えず、意味不明のまま進めてしまった可能性すら考えられた。
さらにいえば、竜王までは別に「呪文」がなくても「やくそう」だけでたどり着くことはできる。
……悪いのは私だった。
私はすぐにNに謝り、その日にうちに攻略本を渡した。
おわり
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