ゲーム回想記2 ~ドラゴンクエストⅡの呪い(前編)~
◯戦いは、発売日一週間ぐらい前から始まっていた!
ドラゴンクエストⅡ・悪霊の神々。
これが原因である。
発売されたのは1987年1月26日。発売はENIX(現・SOQUARE_ENIX)である。
ドラゴンクエストの続編であり、前作の人気により、予約で既に完売という店が続出していた。
今回はあらかじめ父親が知り合いのお店に予約を入れてくれていたので、発売日には手に入る予定ではあった。
それでも不満はあった。
父親が仕事から帰ってからでないとドラクエⅡがプレイできないからである。しかも帰ってきてから、お店に買いに行くという工程が加われば、プレイを始めるのはさらに遅くなる。
◯なぜそこまで早くプレイをしたかったかというと……
発売日が近づいてくるにつれ、クラス内でもドラクエⅡの話題が増えてくる。自然に高まっていく、自分こそが最初にドラクエⅡをクリアするという闘争本能。
表にこそ出さないが、会話の端々に互いを牽制しあう言葉が混じっていた。
私も例外なくその中にいた。
なけなしの小遣いをゲーム雑誌に注ぎ込み、出来る限り情報を集めた。表紙にドラクエⅡの文字があるだけで、飛びついた。親が買い物にいくというだけでついて行き、どさくさに紛れて、ゲーム雑誌を買わせた。
◯それは予想外のありえない幸運だった
発売日の前日。
夜9時過ぎぐらいに父親に電話があり、出かけていった。
そして30~40分ほどして帰宅すると、その手には『ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々~』が握られていたのである。
普通にあり得ない状況だった。
予約した者なら、発売日前日にこっそり連絡をくれるお店があるという話は聞いたことがあった。
だが、二日前というのは聞いたことがない。
父親は曰く「仕事で配達している得意先の問屋さんに頼んでおいた」ということだった。父親はトラックの運転手をしていた。知り合いというのは玩具類を扱う問屋さんだったのである。
ただし、今日手に入れたことは絶対に誰にも話すな、と釘を刺された。もし誰かに話してバレてしまうと、ドラクエⅡのソフトをお店に返さないといけなくなるとも言われた。
もちろん、言うわけがない!
すぐにドラクエⅡのソフトをファミコンに差し、電源を入れてスタート。
ドラクエⅡ攻略が載っている雑誌を広げながら、二時間ほどプレイした。さすがに0時を回っていたので、親から眠るように言われ、そこで中止した。
記憶ではサマルトリアの王子を仲間にして、ムーンブルクの王女を助けるために、ムーンペタの町にたどり着いたところぐらいまで進めていた。
そして、そこで初めて復活の呪文(パスワード)の長さに驚かされた。ドラクエの時より遥かに長かった。 ノートにそれを書き映し、その日プレイは終了した。
◯発売日、前日……
すでに学校に行くとクラス内は異様な雰囲気と緊張に包まれていた。
判っている者は判っている。
予約している店によれば、一日前にソフトが手に入るのである。
誰よりも早く帰りたい!
それはドラクエⅡの予約している者全員が、同じ気持ちであった。
そんな異様な雰囲気のなか、私も口を滑らせないようにするため、必死だった。
仲のいい友達は、なにかと探りをいれてくる。
今日、ドラクエⅡは手に入るのか?
どこの店で予約したのか?
ドラクエⅡの攻略情報、どの雑誌が詳しいなど……
序盤は知っているので、うっかり口を滑らせてしまい、雑誌で見たという言い訳でどうにかはぐらかした。しかも、私のクラスでドラクエⅡの購入を予定している男子は、わりと多かった。
その日は静かだった。担任の教師が、今日は一体どうしたのか? と尋ねてくるぐらいであった。
毎日2ページの漢字の書き取りの宿題も、普段は絶対書かないような難しい漢字を、丁寧に書いた。小テストがある授業前の勉強や授業での挙手も積極的に行なった。
その日、私は給食当番であった。放課後居残らなければならない掃除当番であることを嘆いている友人を尻目に、とてつもなく大きな優越感が私を満足させてくれた。
授業が終わり、いつも一緒に帰っている友達と一緒に帰った。二人ともなぜか小走りであった。その理由を互いに尋ねることはなかった。
◯ふっかつのじゅもんがちがいます
家に帰り、昨日の続きをするべく、ドラクエⅡの復活の呪文を入力した直後のことだった。
走る衝撃!
そして戦慄……
何度もノート見直したが、間違ってはいなかった。
昨日のプレイが幻のように消えてしまったのである。
他に復活の呪文は取っていなかった。
最初からやり直すしかない!
せっかくの優位性が失われ、むしろ出遅れる結果になった。
歯を食い縛り、悔やんだ。
あの時、もう一度復活の呪文を見直していれば!
すぐに、そんなことを言っている場合ではない事に気づいた。ライバル達はこの間にも、どんどんドラクエⅡを進めている。
考えた。
秘策は、あった。
危険な方法ではあった。
私の寝ている部屋に、ファミコンが置いてあった。カーテンで仕切っているだけだが、親が寝ている部屋とは距離がある。
問題はトイレと近いということだけである。
明日、優越感に浸って自分を見下すライバル達の顔を伺って一日を過ごすのか!?
親にバレればどうなるか判らないが、起死回生の策を取るのか!?
言うまでも無かった。
とにかく寝ろと言われる時間、0時までは目一杯プレイした。当時は、銭湯に行っていたのが、今日は行かなかった。何とか船を入手するまでは進めることが出来た。
そして、2時までは我慢した。
幸い、父親は次の日が休みであった為、朝早く起きるということはあり得なかった。母親も起きるのは7時ぐらいである。
7時で終わるとして、5時間ある。
2時過ぎ、私はトイレに行く振りをして、両親が眠っていることを確認した。
(後編へ……)
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