ゲーム回想記3 ~ドラゴンクエストⅡの呪い(後編)~
目次
◯ファミコンの電源は切っていなかった
つまり、テレビの電源だけを切った状態にしていたのである。念のため、復活の呪文は書き写していた。
私はイヤホンをテレビに繋げ、すぐにプレイを再開した。
当時、所持していたイヤホンは片耳タイプなので、家族の誰かがトイレに行く音がすると、すぐに対応することができる。
実際、暗闇の中で一人テレビ画面に向かっていると、集中力が研ぎ澄まされ、物音がするとすぐにテレビの電源を切り、息を潜めることができた。
◯昨日のプレイは無駄になったとはいえ、ルートは覚えいた
帰ってからのプレイで、すでにムーンブルク王女を仲間にし、風のマントを入手するところまでは進めていた。
ドラゴンのつのと呼ばれる塔を登り、川を飛び越えて港街ルプガナに到着。そこで船を入手した。
船で海へ出てから、適当に航海していると、偶然にもザハンの町へたどり着き、金の鍵を入手することができた。小一時間ほどだったと記憶している。
おかげで故郷の城に保管してあったロトの盾などを入手することができた。また、アレフガルドの地に降り立つとドラクエⅠのBGMに変わるため、すぐに地形を思いだした。竜王の城でロトの剣を手に入れるなど、装備をパワーアップすることができた。
紋章集めなど、まだまだやり残していることはあったが、7時になったため、そこでプレイは中断した。復活の呪文は書き写したが、ファミコンの電源は入れたままであった。
予定通り、宿題を済ませ、8時過ぎには学校へ行くために家を出た。
◯クラスでは当然のようにドラクエⅡの話題
朝から集まり、
購入できたのか?
どこまで進んだのか?
などの探り合い。
本来なら今日が発売日なので、今日入手する予定のクラスメイトの羨ましそうな顔を見ながら、優越感に浸った。
船を入手して、金の鍵を入手するまで進めていた私は、クラスのなかでは一番進んでいた。
が、しかし……
◯私より先に進んでいる者がいた
そう、あのドラクエの時に私を紹介し、その後、熾烈な争いを繰り広げた友人Aである。
クラスは違うかったが、昼休みに話をしてみたところ、すでに終盤の鍵と思われる邪神の像を手に入れていた。
またしても奴に先を越された!
母子家庭で母親が夜勤のため、夜の間中、ずっとドラクエⅡをプレイしていたらしい。
復活の呪文を写し間違えて消えてしまった2時間が悔やまれた。
しかし、まだ負けた訳ではない! クリアはしていないっ!!
友人Aもほとんど紋章を集めていなかった。
私も集めていなかったが、入手するためのヒントとなるアイテムは持っていた。
紋章のある場所で吹くと木霊するやまびこのふえを、入手していたからだ
家に帰ると、すぐにプレイを再開した。ファミコンの電源は点けたままなので、復活の呪文を入力する手間もかからない。
わずかでも時間が欲しい!
◯予定は昨夜と同じ通り
それでも、夜中プレイできるという友人Aのほうがプレイ時間優位性は変わらない。
プレイを再開してから小1時間ほど経ったぐらいだろうか?
ドラクエⅡを進めることしか頭になった私は、カーテンで仕切られたこの部屋に、焦げたような臭いが充満し始めていることに気づくことが出来なかった。
そのうち目が痛くなり、涙まで零れ始めた。それでも私はプレイし続けた。
何とか少しでも…あわよくば今日中にドラクエⅡをクリアしたい! という一心からであった。
友人Aが手に入れていた邪神の像を手に入れ、ここから勝負という時。
突然、カーテンが勢いよく開けられた。
血相変えた母親だった。
「あんた、何してるの!? ファミコン燃えてるでしょ!!」
ファミコンから煙が舞い上がっていた。
母親がファミコンのアダプターをコンセットから抜こうとした。
「待って! 復活の呪文取らせ…ああーっ!?」
「何を言うてるの、この子は!!」
母親は無惨にも、ファミコンのアダプターを抜いてしまったのである。
今考えれば当然のことなのだが、当時の私にとってその行為は、地獄へ突き落とされるのと同じだった。
真っ暗になったテレビ画面。
まだうっすらと煙を舞い上げているファミコン。
何が起こったのかすら、その時は理解していなかったかもしれない。長い時間、ただ呆然として過ごした。泣いていたかもしれない。
昨日からファミコンの電源を入れっぱなしにして、しかもビニール素材の敷物のうえに置いていため、熱暴走したのだと思われた。
掃除もしていなかったのでホコリが積もっていたことも理由としては考えられる。
どちらにしても、煙を吹き上げたファミコンが、動くことは二度と無かった。
◯再度ファミコンを購入して貰えるまで、二週間という時間を有した
日、学校へ行った私は、親から「ファミコンを禁止され、ドラクエⅡを進められなくなった」という、屈辱的な嘘をつくしかなかった。
とても真実を話すことはできなかった。
友人Aは翌日の次の日にクリアした。日が進むにつれ、他のクラスメイト達にもどんどん追い抜かされた。
話題はすぐにラゴスの居場所、ロンダルキア、最終ボスのシドーへと移り、私は蚊帳の外へと追い払われた。
結局「ファミコンは一日一時間」など、普段、私が蔑んでいた連中に擦り寄り、つるむぐらいしかできなかった。
当初、父親や一緒に暮らしていた祖母は怒って、ファミコンはもう買わないという話だった。
だが、ゲーム好きだった父親が我慢出来ずに、二週間ほどで再度手に入れてくれたことは、不幸中の幸いだったかもしれない……。
おわり
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